人力飛行機を割と本気で設計してみた。第二報

さて、第二報です。今回は翼型設計、というより自分で自分のアプリケーション
「XGAG」
XGAG 遺伝的アルゴリズムによる翼型設計GUIアプリケーション
をつかって翼型を設計してみた結果およびノウハウ等を書きたいと思う。

実際に設計した翼型は第一報の方のXFLR5に入ってます。加えて翼形状の下にダウンロードリンクを張っておきました。

まずは翼型設計コンセプト。二つあげられる。

  • 薄翼にして、とにかく低抵抗であること
  • 揚力係数が循環分布設計によって求められたものとできる限り一致すること

である。
最近はどこかの機体の影響もあってか、翼根の翼厚が13%を越えるようなぶっとい翼型が流行っているけれども、今回はワイヤー機ということで、できるだけ翼厚を小さくして、形状抗力を小さくしようという考えが根底にある。また、せっかく循環分布きちんと設計したんだから、できるだけそれに合わせようと頑張っている。

紅鮭・肥の主翼はセクション毎に翼型を設計して、それを線形に混合するという形を取っている。こうするとプランクとか線形に変化していくことになって作りやすいし再現性上がるのかなとか考えている。

翼根翼型「BENIFOIL_1」


BENIFOIL_1.dat
本当はもっと薄くして形状抵抗を減らすつもりだった。けれども9%程度の翼厚では、設計点を外れたとたんに性能ががた落ちしてしまう上に、見た目もガタガタのものが多く、さらに下面のキャンバーがきつすぎて変な形になってしまうものが多かった。変な形って何だよって感じだが、違和感と言えばいいのかな?やっぱし綺麗な形使いたいからね。

翼厚を11%程度にすることで安定した性能と、作りやすそうな形になった。前縁はDAE31、後縁はFX76MP120ぽくなった。性能は下のポーラーカーブ参照
Re:440000 0-10° XFOIL解析値

とにかく翼根で高いCLが要求されたことから、着目すべき点は「失速特性」および「高CLでの抵抗」である。翼根でCm気にするのは野暮ってもんです。そのためには上面の圧力係数を前縁にて急激に引き下げる事が有効だ。この手法が採られているのがDAE31やFX76MPシリーズであるからこれをベース翼型に使ってやる。この条件設定によって相対的にれらの翼型が際立ってくるので、それを修正するような翼型を他のベースにすることで、既存翼型の改善を狙う。。。という感じか。ちょっと良さそうなのができたらそれを保存してまたその翼型をベースに。。。といった形で欲しいCLを実現した。速度分布修正はXFLR5で、速度分布の高周波成分を取り除くhanning filterをかけた。この翼型は翼根向けなので、取付角を微調整して、厳密にCLを合わせる感じ。

性能としては低CL域ではDAEにほんの少し劣るものの、使用CL域で抵抗はDAE31より小さい。失速特性もDAEより良いと言えるだろう。欠点は後縁形状で、少し細く作りにくいかなと思うがFX76MP120より全然マシ。

この翼型を中央翼、内翼に混合無しで用いる。内翼は捻り下げであり、CL1.125付近まで捻り下げる。

外翼翼型その1「BENIFOIL_2」


BENIFOIL_2.dat
薄くして形状抵抗を落とした翼型。設計CLを1.012とすこし低く設定した。そこでこのCL域でのの性能確保(低抵抗)を一番の目的とした。

うーん、この翼型はあんまり言うことないなぁ。。。(笑)
ポーラーカーブはこちら。高CL域ではDAE31の圧勝だが、低CLでは低い抗力である。御陰で最大揚抗比はDAE31を凌駕していたりする。
Re:390000 0-10°XFOIL解析値

着目すべきは下面の失速による性能低下がBENIFOIL_2の方が小さいという点だ。高CLでおおきいキャンバをもつ翼型は下面が乱流遷移する事がある。低CLを実現するときは、やはり大きいキャンバの翼型を捻り下げて使うより、小さいキャンバの翼型を設計してしまった方がいいなと強く感じる今日この頃。

外翼翼型その2「BENIFOIL_3」


BENIFOIL_3.dat
BENIFOIL_2とほとんど同じ形状だが、微妙に太い。設計点は迎角1.48°、CL0.832。BENIFOIL_2との形状の類似は偶然。(ベース翼型にBENIFOIL_2が入っているので完全に偶然とは言えない)
しかしこれは
外翼その2を取り外して飛行することができるこの設計
にとってかなりプラスである。

いつもどおりポーラカーブを載せておく。
Re:390000 0-10°XFOIL解析値

ちょうどDAE31だと下面の乱流遷移が始まるところだし、DAE41にすると使用CLが高すぎて性能がでない。
また、BENIFOIL_2と比べると少し失速特性が穏やかになっていて、レイノルズ数が急激に下がり始める最外翼での使用に適していると思われる。

XGAGで作るときはBENIFOIL_2をベースに修正を加えていった感じだった。

最外翼翼型「BENIFOIL_4」


BENIFOIL_4.dat
構造制約を考慮した最適循環分布計算では、その狙いの通り、翼端で発生する揚力は小さくなる。揚力は翼弦長×揚力係数CLに比例するから、翼弦長を大きくしすぎると設計CLが低くなって取付角マイナスもしくはキャンバーが下にそるとか残念な事が起こる。逆に翼弦長を小さくしすぎると、レイノルズ数が小さくなるうえに揚力係数が高くなるからどんどん失速に近づいて。。。といったジレンマが発生しやすくなる。BENIFOIL4はその中間を狙った感じ。キャンバーはほとんどなし。翼厚も太いが太すぎず。。。な値を選定した。

ポーラーカーブでDAE41と比較してみよう。
Re:220000 -4-4°XFOIL解析値

DAE41はまさに楕円循環分布の翼端のために作られた翼型のようなもので、楕円循環だとちょうどいいCLだし抵抗は小さいしで、その存在感の薄さの割にいい翼型。
この翼型に対し、CL0.5付近から抗力の増大が見られるものの、それ以下での抵抗はDAE41より小さくなっている。

ただしこの翼型は、1.48°の設計迎え角で使用すると、下面に乱流遷移が見られる。これが翼端で剛性の低い桁と相まってちょっとだけ不安。


まとめとおまけ

第二報では翼型に焦点をあてて、その設計例やノウハウを紹介してみた。
総じて言えることは(自分で言うのも何だけど)
マジXGAG作って良かった!
ということ。今までみたいに翼型に縛られた桁設計をしなくていいし、なにより、だいぶ主翼の性能を上げることができる。
また、外翼その2を取り外して翼幅30m機にするというのも、XGAG無ければ設計難しいだろうなーと思う。

話は外れるけれども、やはり翼幅30mと34mでどれだけ違うのか、解析では分かるけれども実際どうなのか、やっぱり気になりませんか?
34mでの運用はパイロットが慣れるまで結構大変だと思うし、30mの方が風が多少強くても飛ばせそうだ。

こんな風に、今までなかった機体の、時代を半歩ぐらい進めてくれる機体の実現をめざして、ちまちま活動をはじめているところだ。

私の大好きな曲の歌詞をもじってとりあえず第一報、第二報の締めくくりとすることにしよう。


世界分かつ空に耳を澄ませば、招く声が響く。
旧知の軛と袂を分かち、そして生まれる
新世界