失速特性を考慮した翼型設計ocXgag その1 背景

とてもとてもご無沙汰しておりました。Yuukivelです。

私事ですが、今いる大学の博士課程への進学を決めました。
これから3年間、研究に(趣味の)研究に精進して行けたらと思います。

また、2016年の琵琶湖の某大会において、私たちのチームFlightWorksは1029.75mと少々残念な結果に終わってしまいました。


ザッパーン

で、本記事はその結果の考察をうけて作った、新たな翼型設計プログラムの紹介と公開記事となります。

FWフライト考察の抜粋

さて、FWのフライトにおいて、大きく二つの原因によって飛行時の必要出力が増大し、短距離にて着水したと考える。

1.機体の速度安定が非常に小さいもしくは不安定だったため、飛行の大部分をバックサイド側にて行っていた。
2.翼端の翼型の失速特性が悪く、速度不安定によって減速しがちな機体において、頻繁に層流剥離を起こしていた。

以上の2点。

1はこの記事の本題ではないので詳しく述べないが、速度不安定というのは、加速をすれば抗力が減ってさらに加速、減速をすれば抗力が増えてさらに減速するという状態。
水平飛行の飛行機において、誘導抗力と形状抗力が等しい速度で飛べば抗力は最小となる。
以前の記事に書いた通り、この機体はスパンを固定して最適設計を行ったわけだから、基本的にはこの底の抗力を目指して設計されることになる。

すなわちどういうことか。機体の抗力が小さすぎるということだ。より正確に言えば形状抗力が小さすぎる、翼が薄すぎる、ということ。
まさに狙った通りの設計だったことが証明されたわけだけれども、これによってバックサイド側の飛行出力とフロントサイド側の飛行出力が接近し、圧縮機でいうところのサージングのような現象が起こったというわけだ。

2つめ。
以下のグラフを見てほしい。

このグラフは、この機体の翼端の翼型を、迎角0.5°、レイノルズ数25万で解析した際の、形状係数H(Shape Factor)の値である。
形状係数はこの後詳しく解説するが、この値が層流において3.55(西山哲男「翼型学」より)、乱流においては2.2から2.4(http://adg.stanford.edu/aa200b/blayers/turbseparation.html)を超えると剥離が起こるといわれている。
形状係数が大きければ、基本的には摩擦抗力係数は小さくなるが、その分、剥離に近い状態になる。
この翼型はHの履歴を見ると、上面、下面ともに早い段階でHの値を引き上げてさらに増加させることで、抵抗を小さくしようとしていると考えられる。
しかしながら早い段階で層流剥離の基準値である3.55を超え、さらに下面も高い形状係数値になっている。
以下にAG24の同条件での形状係数を示す。

AG24の形状係数分布は比較的一般的な翼型のものと一致する。
翼型は遷移点付近で急激にHの値を引き上げて、できる限り剥離しないように形状係数を設計することが多いようだ。

すなわち何が言いたいかというと、FWの機体の翼端の翼型は、性能を追求するあまり非常に失速特性が悪い。
速度不安定によって機体が急激に減速すると、失速特性の悪い翼端が層流剥離を起こし、ストンとロールが始まる。

FWの記録は、ほとんどこれが原因だろう。
翼端の翼型の形状が普通だった、そして翼根の翼型の特異性を気にかけすぎたことによって、設計においてこの点を見逃していた。



そこで、失速特性を考慮した翼型設計になるわけですよ。

ocXgag --Optimal Control of Viscous/Invicid Interaction for General Airfoil Generation

公開と使い方についてはその2に譲るとして、基本的な考え方を紹介しよう。

名前の由来は前に作ったXGAGにoptimal Controlを付け足した感じ。Viscous/Invicid InteractionがXFOILにかかっているので、X。

まず翼型設計コンセプトは以下。
「境界層成長に影響を与える形状係数Hの値を失速特性のわかっている翼型と同様に保ちつつ、揚力・翼厚の調整および抗力の最小化を行う」

境界層方程式は、境界層運動量厚Θを状態量に、以下の微分方程式で記述される。
\frac{d\theta}{dx}+(H+2)\frac{\theta}{u_e}\frac{du_e}{dx}-\frac{c_f}{2}=0
ここでu_eは翼型の形状(と境界層厚さ)によって一意に決まってしまうため、多少変わるのは仕方ない。
他方、c_fの値は(翼型学の本によると)Re_\thetaとHの値によって決まるため、境界層の成長の仕方は形状係数Hに大きく依存する。

ここで形状係数HまたはShape Factor(Shape ParameterとかShape Functionとか言ったりもする)について。
Shape Factor は境界層排除厚\delta or D*と境界層運動量厚\thetaの比である。
D* = \int_{0}^{\infty}(1-\frac{u}{u_e})dy
\theta = \int_{0}^{\infty}\frac{u}{u_e}(1-\frac{u}{u_e})dy
H = \frac{D*}{\theta}
この値は境界層内速度分布が立つ、すなわち剥離に近くなれば大きくなり、壁付近にて速度分布の傾きが大きい剥離しにくい速度分布であれば小さくなる。
また先述したように境界層方程式の運動量厚の成長に大きな影響を持つ。

そして「境界層が似た状態にあれば失速特性も似てくるだろう」と安直な考えのもと最適化問題を定式化すると以下のようになる
minimize:\quad C_D
subject\quad to:
\quad \quad \quad \quad C_L-C_{L\quad obj}=0
\quad \quad \quad \quad thickness-thickness_{obj}>=0
\quad \quad \quad \quad TE\quad angle-TE\quad angle_{obj}>=0
\quad \quad \quad \quad H_i-Hconst_i <= 0 (i=1,2,...,n_{node})

傾向として後縁開き角が小さくなりがちだったので、これも制約条件に加えた。

Hconstの値の設定の仕方については、オリジナル翼型のHの値をdXtrだけ左右に動かしたものの最大値を制約条件の値とした。
これによって、遷移点の前後によるHの変化を吸収することができる。

この非常に制約条件の多い最適化問題を効率的に解くため、遺伝的アルゴリズムのようなメタヒューリスティクスではなく、勾配情報を利用するSLSQPという方法を用いている。
また、勾配評価ごとにXFOILを回していたのでは有限時間で計算が終わらないため、ある点周りの境界層情報を近似して設計変数の変化に対する各パネルの圧力分布や形状係数値を表し、その積分によって揚力係数や抗力係数を求める「Local Aerodynamic Approximation」法を用いている。この方法はまだ研究段階のため、収束に難があるけれども、計算に時間のかかる流体と関数評価回数の多い最適制御問題を橋渡しするものとして注目している。

翼型の表現については、ベースとなる翼型に修正PARSEC法による微小振動を加える形で局所的に翼型を修正し、その繰り返しで解を探索していく。
正直Optimal Controlか?といわれればそうなのだけれども、一応シューティング法っぽい手法を使っているということで許してほしい(笑)
本当であれば、XFOILを使わず境界層計算も自前で実装して境界層の状態量と形状を同時に解くDirect Collocation法で実装したかった。

実際にDAE31と、この手法を使ってCLを上げ(CL=1.12)、翼厚を薄くした翼型(9%以上)の揚力係数-迎角のグラフを比較してみる。

二段階失速の開始点はほぼ変わらず、全体的にオリジナルDAE31を上にシフトしたような翼型となった。
解析点の抗力係数については、オリジナルDAEが80.4カウントなのに対し、修正後が76.6カウントとなり、薄翼化による抗力係数の削減が実現できている。
すなわち、失速特性を維持しつつ、桁や指定の循環値に合わせた翼型の調整が可能となる。

さて、ではその2にて、配布および実際の使い方を見ていく。