粘性の世界に足を踏み入れてみた

皆さんこんにちは。yuukivelです。

部屋の模様替えをして、買ってしまいました。人をダメにするソファ。

ビーズクッション CUBE L ブラウン

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正確には無印良品のアレではないんですが、読書するのにちょうど良くて重宝してます。
カーペット敷いて一人暮らしの部屋の床に座れるようになると、なかなか捗る気がします。ベッドに寝転がりながらもできないし、机の前に座ってやるようでもないものをやるのにちょうどいいかなと。

今後のプログラム作成とかももっと捗ればいいなぁ。



さて、今回は前回の続きとなる。前回のポテンシャル流れ解析に粘性の影響を入れてみた。Navier-Stokesを離散化して、乱流モデルをつっこむような粘性考慮ではなく、いわゆるパネル法で求めたポテンシャル流れでの翼型周りの速度を境界層外縁速度として、境界層方程式を解いて翼型抗力を求める方法、である。用いた表面摩擦係数にかんする関係式は層流が「the Falkner-Skan one-parameter profile」、乱流が「Ludwieg-Tillmannの式」を用いている。乱流遷移位置判定法は通称「e^N法」を用いた。


NaGAf32_412_12.dat
上の翼型は前回記事にした遺伝的アルゴリズムで新たに作ってみた翼型。Clを1.2(理由は後述するが実は1.2を0.88で除した値)、翼厚を12%として外れたら罰則を加え、迎え角4° レイノルズ数が55万という条件の下Cdが最小になるように最適化をかけている。条件設定は、スパン20-22m位の速度競技型人力飛行機の翼根に用いる翼型を想定している。こちらも実はXFLR5のInverse Designで速度分布の平滑化を行っている。


XFOILはパネル法で翼型周りのポテンシャル流れの速度を求め、それを用いて排除厚を求めた後、その排除厚の分翼厚を増してまたパネル法で翼型周りのポテンシャル流れを解く、というプロセスを繰り返して、最終的に都合の良い粘性流れを求めているらしい。だからポテンシャル流れと粘性流れの速度分布に違いが生まれている。

今回作成したプログラムは収束計算を入れずに、前方よどみ点から粘性の影響を積分していって求めている。だからClはポテンシャル流れのものと同じになる。西山哲男先生の「翼型学」によると、粘性流れの揚力係数は、非粘性流れの揚力係数の約0.88倍になるという。結構大きく出る。このように収束計算を入れないで粘性の影響を求めるプログラムで有名なものとしてR eppler先生の「epplerコード」が挙げられる。

翼型学

翼型学

抗力係数に関してはそこそこXFOILと一致している。といってもXFOILでのDAE31 迎え角5° レイノルズ数500000での解析の値が0.00921 私の書いたプログラムで0.00902という結果になった。この値を一致しているというかずれているというかは微妙なところだ。翼型によってもどれほど一致するかは変わってくるし、そもそもともに数値計算の出力した値であって実験値ではないので比較はできない。いい感じの値がでた、としか言えないのが残念なところ。

そして私が最も重要に感じたのは「遷移点判定」だ。今回はXFOILと同様のe^N法を用いた。e^N法とは、跡部隆先生の「e^N 法に基づく境界層の遷移予測とその検証」 http://airex.tksc.jaxa.jp/pl/dr/AA0001981000 によると、層流内における流れの擾乱の振幅が、初期振幅のe^N倍になったときに乱流に変化するというもの。このNの値には9とか10が一般に用いられているが、理論より導き出されたものではなく実験値らしい。つまり表面の状態が異なればこのNの値も変わってくるものと思われる。
このNという値だがXFLR5に触っている人はもう目にしたことがあるはずだ。これはまさしくdifine analysisのところに出てくるNCritのことだ。表面の状態によってNの値を変えることでより正確な遷移点予測ができるということである。

…とはいっても、Nの値を調整できる人は、特に人力飛行機界にかぎって言えばまずいないだろう。これに直面して感じるのは、「やっぱり人力飛行機開発には実験が全然足りないなあ」ということ。足りないというよりもこの部分には諦めが必要なのかな、と。数値計算数値計算として割り切ってしまわなければやっぱりなにも変化していかなくなってしまうし、なんというか、「人力飛行機の」空力と付き合うのであれば、設計と現実の整合性を考えてもナンセンスな気さえしてきた。

ああ、うまくまとめられない。

で、今回はお約束(?)の通り、コードを公開してみようと思う。いつもの通りoctaveのプログラムで、GUIも結果のグラフ表示もない簡素なものだけれども、何かの役に立ってくれれば。
また、間違っているところとかあれば教えていただけると嬉しいです。
 
NaFoil.m

作業ディレクトリに翼型の座標ファイル(.datでも.txtでも可。ただしファイルの1行目は翼型名だとして読み込まないので注意)を入れてNaFoilを起動。翼型名「dae31.dat」みたいな感じで入力して条件を打ち込めばOK。

主に参考にした文献は
西山哲男「翼型学」日刊工業新聞社 1992年
Mark Drela and Michael B. Gilest,Viscous_Inviscid_Analysis_of_Transonic_and Low_Reynolds_Number_Airfoils
跡部隆,e(exp N)法に基づく境界層の遷移予測とその検証
河崎俊夫 ; 石田洋治,低マッハ数における翼型の翼型抗力の計算
石田洋治,圧縮性流れにおける翼型抗力の計算

他にも参考にした文献はたくさんあるが、主なものを抜粋して紹介した。
そもそも付け焼き刃な知識も多いので、いたらないところも多かった。ただなんというか、粘性はなんだかつかみ所がないようなところもあって、こりゃ学部低学年で踏み込むのは無理があるなぁとも感じた。

今回やってみて思ったことは、XFOILにしろなんにせよ、数値計算数値計算だということ。遷移点の予測が狂えば揚抗比なんて乱高下するし、そもそもe^9倍になったとことで乱流に遷移するような表面が作れるとは限らない。外皮の薄さが少し変化しただけでも圧力分布はガタガタになるし、うーん、って感じ。設計だけするのであれば、粘性の数値計算に踏み込まない方が幸せかもしれない。ただし、これをやったおかげで翼型の圧力分布はだいぶ見ることができるようになったのと、翼型作れるようになったのは良かったかな。

これ以上粘性の世界に踏み込むのは、一生を粘性、もとい乱流に捧げてしまって泥沼にはまりそうな気がするし、とりあえずXFOILは素晴らしい、ってことが分かったし、やめておこうかなと思う。次は機体運動学的で最適化的なことに踏み込みたいなあ。

でもそろそろ自分で翼型も作れるようになったことだし、私が2年半の間勉強したことの総大成として、また人力距離競技機を描いてみたいなぁ