どこぞのチームの主翼空力設計
年の瀬ですね。思えば2012年はいろいろとありました…嬉しいことも哀しいことも、今までに経験したどの年よりも大きかったように思います。
さて年始に起こるであろうなかなか面白い出来事に向けて、どこぞのチームの主翼空力設計の理論を詳しく紹介しておこう。
また空力設計…と言われてしまう気がするが、空力設計はなかなかチームにおいて特色が出ていて面白い。XFLR5をフルに用いて設計するチームや、単一翼型でテーパー比を最適化するアルゴリズムを用いているチームなど、三面図を見るだけでもそのチームの設計方法をうかがい知ることが出来る。
最近は揚力線理論に変わって揚力面理論が普通に設計に使われる下地が出来てきて、本当に楽しい限り。これからたわみや地面効果を考慮した空力設計が登場してくるのではないか。私もそのうちやろうかな。
ところが、よく言われる言葉がある。「○○(うち)の空力はよく分からない」と。確かに翼型混合率はよく分からないグラフ、捻り下げは使わないもしくは翼端のみ。(混合率は上のグラフの緑の線、迎角は下のグラフの緑の線)
ただし、この空力設計法を私はとても気に入っている。なぜなら
- 超簡単
- 誘導抗力は最小に近い
- 翼型の混ぜ混ぜが簡単で翼根と翼端で最適な翼型を使うことが出来る(→構造に配慮したりも出来る)
etc...とにかく便利。
ちまちまと紹介してきたが、きちんと理論の体をとって紹介しておこう。この方法は今まで用いられてきた方法を参考にしつつも私なりに組み直した方法である。
二翼型非線形混合による誘導抗力最小化設計法
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まず、誘導抗力が最小であるのは楕円循環分布であると仮定する。
このとき、の揚力を発生する円循環分布の翼根の循環値は
(半分の楕円の面積が揚力だから、面積とスパンからもう片方の軸の値を求めている)
と表せる。
この循環分布を仮定した際の下向き誘導速度はスパン方向に一定で、
と表せるから、主翼翼素に流入する空気の速度Vは三平方の定理より求めることが出来る。さらに誘導速度によって生じる誘導角度は
とかける。これで設計の下準備は整った。
さて、バッキンガムのπ定理より求められる揚力の式は
(もちろんはロール方向ローリングモーメントのことではない。揚力係数である)
また、クッタ・ジュコーフスキーの定理より求められる揚力の式は
で表されるから、以上2式を等号で結ぶと、
となるわけである。このうちVは設計速度vと誘導速度より求めた。従ってyに関する変数となるのはC:翼弦長と:揚力係数となる。
今となる。このうちMは翼型混合率である。つまり、揚力係数は、レイノルズ数Reと迎え角αと翼型混合率Mの関数となる。
従って循環分布が決定され、誘導速度も求めてある今、翼弦長が決まれば翼素のレイノルズ数が決定し、XFLR5などの空力データに迎え角で補間をしてやれば、その揚力係数を満たす翼型混合率を決定できる。翼端で翼型が決定している場合は、欲しい揚力係数を得る翼素迎え角を補間により決定する。この部分は技術的に工夫すべきところ。私の場合はレイノルズ数に対する三次元スプライン補間で各翼型混合率のリストを作り、もう一度補間を入れて翼型混合率を決定する。捻り下げはもっと簡単。
さて、翼弦長の決定に工夫がある。
まず、翼根の翼弦長を決めない限り、何も始まらない。そこで、主翼取付角を定め(入力)、Reを適当に定める(450000くらい。この値をいくつにするかで設計思想が分かれる)
この状態で発生する揚力係数を補間により求め、その揚力係数より翼根翼弦長を決定する。これによりRe数をより厳密に求めることが出来るので、今度はこのRe数で先ほど求めた揚力係数を満たす主翼取付角を決定する。つまり、入力した主翼取付角より少しずれる。
テーパー比の決定の方法は詳しくは割愛。一言で言うと、テーパー変化点における翼型混合率のグラフの傾きが0になるように次の翼素の翼弦長を決定している。
あと、これで出来上がる翼は翼型変化のない矩形部が存在しない。したがって、少し楕円循環分布からは外れるが、翼根付近の循環分布の上をカットして、翼型変化無しの矩形部を実現している。もちろん、これが大きければ大きいほど近似は成り立たなくなるし、発生する揚力は小さくなる。
こんなところでいいだろうか。個人的にはこの設計法、普及して欲しいんだよなぁ。。。
ただし、この設計法で作ってマスター図面を2DCADで書こうとするととんでもなく大変なので、postscriptによる図面出力が超重要なのだ。